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窪美澄『やめるときも、すこやかなるときも』〜欠けた心を埋め合う恋の物語〜【読書感想文】

今回は、窪美澄さんの『やめるときも、すこやかなるときも』(集英社文庫)を読んだ感想を書きたいと思います。この本は、大切な人の死を忘れられない男と、恋の仕方を知らない女が出会い、お互いを知らないまま、少しずつ歩み寄っていく道のりを描いた長編小説です。2020年には、藤ヶ谷太輔さんと奈緒さんの主演でテレビドラマ化もされました。

やめるときも、すこやかなるときも (集英社文庫)

主人公の須藤壱晴は、家具職人として働いています。彼は、過去にあったある出来事がきっかけで、毎年12月の数日間、声が出なくなる「記念日現象」が起こります。その原因は、彼が大切にしていた人を亡くしたことにありますが、誰にも話さずに生きてきました。一方、本橋桜子は、広告会社に勤めるOLです。彼女は、父親の会社が倒産してからずっと家計を支えてきて、この状況から逃れたいと思っています。恋愛とは縁遠い生活を送っていました。二人は、知人の結婚式で偶然出会い、一夜を過ごしますが、後日、仕事相手として再会することになります。

二人は、お互いに自分のために恋をすることにします。壱晴は、桜子と一緒にいるときだけは、記念日現象が起こらないことに気づきます。桜子は、壱晴と一緒にいるときだけは、家族のことを忘れられると感じます。しかし、二人は、それぞれの過去や現実に向き合わなければなりません。壱晴は、自分が失った人のことを桜子に話すことができるのでしょうか。桜子は、自分が望む人生を選ぶことができるのでしょうか。二人は、欠けた心を埋め合うことができるのでしょうか。

この作品は、人生の変化に対応しながら恋愛をする二人の姿を、丁寧に描いています。二人の心の動きや関係性は、細やかに表現されていて、読んでいると自然に感情移入してしまいます。また、二人の周りには、様々な人物が登場します。家具職人の仲間や桜子の同僚、桜子の家族など、それぞれに個性的で魅力的なキャラクターです。彼らが二人に影響を与えたり、助けたり、時には邪魔をしたりする様子も、楽しく読めます。

この作品のテーマは、「一生添い遂げる」ということだと思います。二人は、自分の人生に満足していないと感じていましたが、恋をすることで、自分の本当の気持ちや願いに気づきます。そして、相手を受け入れることや、自分を変えることの意味にも触れます。最後には、二人がどうなるのか、読者に委ねられますが、私は、二人が幸せになると信じたいです。

窪美澄さんの『やめるときも、すこやかなるときも』は、欠けた心を埋め合う恋の物語です。人生の変化に対応しながら、他者と共に生きることの温かみに触れることができる作品です。恋愛小説が好きな方には、ぜひおすすめしたい一冊です。

以上、私の読書感想でした。ありがとうございました。