三浦しをんの恋愛短編集『きみはポラリス』を読んで
恋愛小説が苦手な私が、思わず最後まで引き込まれた一冊。三浦しをんさんの短編集『きみはポラリス』は、どこにでもいるような人々の、特別で、儚く、そして温かな想いを丁寧に描いた短編集です。
全11編に詰まった「愛」のかたち
この作品には、11の短編が収められています。それぞれに異なる登場人物たちが登場し、恋愛だけでなく、友情、家族、後悔、葛藤といった多様な感情が織り込まれています。なかでも私が印象に残ったのは、「永遠に完成しない二通の手紙」と「私たちがしたこと」の2編です。
「永遠に完成しない二通の手紙」─ 書けない思いが、胸を打つ
この短編では、男女の微妙な関係性が描かれます。手紙という媒体を通じて、相手に伝えたいのに伝えられない気持ちが、どこかもどかしくて切ない。文章はあくまで軽やかでユーモラスなのに、読み進めるほどに胸の奥が締めつけられるような感覚を覚えました。
恋愛における「好き」と「好きじゃない」の境界線は曖昧で、そのグレーゾーンこそが現実だということを思い知らされます。
「私たちがしたこと」─ 苦さと再生の物語
この作品は、過去の過ちと、それを乗り越えようとする人の姿が描かれています。主人公は過去に人を傷つけてしまったことを悔いながらも、日々の生活の中で少しずつ前に進もうとしています。再会した相手との間に流れる空気や気まずさが、すごくリアルで、何度も読み返したくなりました。
三浦さんの筆致は、人間の弱さを肯定し、そっと寄り添うような優しさに満ちていて、読んでいて救われる気持ちになります。
短編集ならではの魅力
短編集の良さは、ひとつひとつの物語が独立しながらも、共通するテーマがあることだと感じました。『きみはポラリス』では、「愛」というものの多様性が中心に据えられていますが、その表現は決して一様ではありません。
不倫、同性愛、片想い、過去の恋──さまざまな立場や年齢の人が登場し、それぞれが一生懸命に誰かを思っている姿が描かれます。ときに不器用で、ときに愚かで、でもその真っ直ぐさが心を打つのです。
読後感について
全体を通して、爽やかさとほろ苦さの絶妙なバランスを感じました。ハッピーエンドばかりではないけれど、読者に「この人たちはきっとこれからも生きていくのだ」と思わせるような、温かな余韻が残ります。
文章はとても読みやすく、難解な表現は一切ありません。それでいて、心の奥底にある感情を静かに揺さぶってくるのが三浦しをんさんの魅力です。
『きみはポラリス』はこんな人におすすめ
- 恋愛小説が苦手だけど、少し気になっている人
- 日常に埋もれている小さな感情を大切にしたい人
- 心を落ち着けて本を読みたい休日の午後に
まとめ:愛の形をそっと照らすポラリスのような一冊
『きみはポラリス』というタイトルの通り、この本は「愛という名の星」が放つ光のように、暗い夜道を照らす存在かもしれません。現実にはなかなか口にできない感情や、人間関係の中で抱える想いを、やさしく、でも確かに言葉にしてくれる物語たち。
読後、少しだけ優しくなれる気がしました。大切な人を思い出すきっかけとしても、この本はおすすめです。
興味のある方は、ぜひ手に取ってみてください。そして、読んだあとはぜひあなたの「ポラリス」を探してみてください。