小川糸さんの小説『とわの庭』は、目が見えない少女が孤独な世界から外の光へと踏み出していく姿を描いた感動作です。
盲目の少女「とわ」の繊細な感覚描写、美しくもどこか不穏な母娘の関係、そして再生への道のりは、読後に深い余韻を残してくれました。
盲目の少女・とわの“感覚”の世界
物語は、生まれながらにして視力を持たない少女・とわが、母とともに高い塀に囲まれた家で暮らしているところから始まります。
「見えない」代わりに、音・香り・手触り・味覚といった感覚が研ぎ澄まされていく描写が実に豊かで、読んでいる私たちも五感を刺激されるような錯覚を覚えました。
庭のラベンダーの香り、鳥のさえずり、母の声…それらがとわの世界のすべてであり、同時に唯一の救いだったのです。
母の愛、それは祝福か呪いか
物語の前半は、閉鎖的な母娘関係が中心です。
とわを守るために家の外と接触させない母の姿勢は、表面的には深い愛情に見えますが、やがてそれが「支配」や「洗脳」にも似た側面を持っていたことが明かされていきます。
10歳の誕生日を境に突然消える母。残されたとわは、飢えと孤独に耐えながら生き延び、自らの意志で“庭の外”へ出ていきます。
再生と出会いの物語へ
外の世界で「十和子」と名を変えたとわは、盲導犬ジョイや親友のスズちゃん、ピアニストのマリさん、恋人のリヒトなど、多くの人と出会いながら、自分の世界を広げていきます。
とわの変化は、ただ「視界」が広がるということではなく、生き方や考え方に光が差し込んでいくようなものでした。
特に、誰かと心を通わせる瞬間、ピアノの音を聴く時間、自分の言葉で詩を書く場面などは、静かな感動を呼び起こします。
「庭」とは、心の内側を象徴するもの
タイトルにもある「庭」は、とわにとっては守られた世界であり、閉じ込められた世界でもありました。
けれど、彼女が“外”の世界でたくさんの出会いを重ねた後、心の中にもう一度「庭」を持てたとき、それは自分で育てる自由な庭になっていくのです。
この象徴的なモチーフが、物語全体をやさしく包んでいて、小川糸さんらしい繊細な筆致を感じました。
『とわの庭』を読んで感じたこと
本作を読み終えたとき、「どんなに苦しくても、光はきっと差し込む」というメッセージを感じました。
人は孤独で、痛みを抱えていても、出会いや言葉の力で再生できる。そしてその力は、必ずしも「目に見えるもの」ではないのです。
とわの物語は、今を生きる私たちに“生きることの美しさと強さ”をそっと手渡してくれるようでした。
まとめ|こんな人におすすめ
小川糸さんの『とわの庭』は、静かながらも深い感動を求めている方、人間関係や自分の再出発に悩んでいる方、そして「心の庭」を育てたいと感じている方におすすめの一冊です。
優しい言葉と静かな強さに満ちたこの物語を、ぜひ多くの人に読んでもらいたいと思います。