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【浅田次郎「終わらざる夏〈上〉」】戦争の矛盾と人間の尊厳を描く渾身の長編【読書感想文】

浅田次郎さんの「終わらざる夏〈上〉」は、戦争の矛盾と人間の尊厳を描く渾身の長編です。

終わらざる夏 上 (集英社文庫)

主人公の片岡直哉は、妻と息子とアメリカへ移住する夢を抱いていた翻訳出版社の編集長ですが、戦況が悪化する中、45歳で臨時召集されてしまいます。彼は、歴戦の兵・鬼熊や若き医学生・菊池とともに、北の孤島・占守島に送られます。そこで彼らは、日本がポツダム宣言を受諾した後も、ソ連軍との死闘を強いられることになります。

この作品は、占守島の戦いを題材にしていますが、単なる戦記物ではありません。戦争の理不尽さと悲劇を、3人の補充兵とその家族の視点から重層的に描いています。片岡は、戦争に反対する思想を持ちながらも、命令に従って戦わなければならない矛盾に苦しむ様子が描かれます。鬼熊は、戦場での経験から、戦争の愚かさと国家の裏切りを痛感し、自分の信念に従って行動することを選びます。菊池は、戦争を憎みながらも、負傷した兵士たちを救おうとする医者としての使命感を持ち続けます。彼らは、それぞれに戦争と向き合い、自分の生き方を模索します。

また、この作品は、戦争の中で生まれる人間の愛と生きる意味を描いています。片岡は、妻や息子、そして敵国の女性との間に愛を育みます。鬼熊は、戦友や部下、そして敵兵との間に友情や尊敬を感じます。菊池は、自分の恋人や患者、そして敵国の少年との間に思いやりや慈しみを示します。彼らは、戦争の中で出会った人々との関係を通して、自分の存在の価値を見出します。

「終わらざる夏〈上〉」は、戦争の矛盾と人間の尊厳を描く渾身の長編です。戦争の歴史を知るだけでなく、戦争の中で生きた人々の心情に触れることができます。戦争の悲惨さと無意味さを忘れないためにも、ぜひ読んでみてください。