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香りの魔法に魅せられた物語――千早茜『透明な夜の香り』

千早茜さんの最新作『透明な夜の香り』は、人の秘密や記憶を香りに変える天才調香師の物語です。 連作短編の形式で構成されており、それぞれのエピソードが繊細につながっていきます。 読みながら、香りの力や魅力について考えさせられました。

透明な夜の香り (集英社文庫)

主人公の一香は、元書店員で、古い洋館に住む調香師・朔の家事手伝いをすることになります。 朔は、人並み外れた嗅覚を持ち、依頼人の望む香りをオーダーメイドで作り出す仕事をしています。 朔のもとには、亡き夫の香りを求める女性や、失踪した娘の手がかりを探す親など、様々な事情を抱えた人たちが訪れます。 一香は、朔の仕事の手伝いをしながら、彼の孤独や苦悩に気づいていきます。

この小説の魅力は、香りにまつわる知識や描写が豊富に盛り込まれていることです。 香りの成分や効果、歴史や文化、感情や記憶との関係など、香りの世界が広がっていきます。 また、香りの描写は、色や音や味など、他の感覚と結びつけて表現されており、読者の想像力を刺激します。 例えば、ある依頼人の香りは「青い月の光のように冷たく、銀色の鈴の音のように鋭く、ミントの葉のようにさわやかだった」という具合です。

香りは、人の心に深く刻まれるものです。 この小説では、香りが人の過去や未来、希望や恐怖、愛や憎しみなど、様々な感情や思いを引き出します。 そして、香りは、人と人との関係やコミュニケーションにも影響を与えます。 一香と朔の間にも、香りを通じて微妙な変化が起こります。 香りは、言葉では伝えられないものを伝えることができるのかもしれません。

千早茜さんの文体は、美しく静謐で、香りの魔法に魅せられるような感覚を与えます。 しかし、その裏には、人の心の闇や葛藤も潜んでいます。 この小説は、香りと人の物語を描きながら、現実と幻想の境界に触れる作品でもあります。 最後のエピソードは、読者の想像に委ねられる余韻のある結末です。 『透明な夜の香り』は、香りの魔法に魅せられた物語です。