BOOK PICKS~おすすめ書籍と映像のレビュー~

お気に入りの書籍と映像作品をご紹介します

【恩田陸】『スキマワラシ』は建築物の記憶と人の繋がりを描くファンタジックミステリー【読書感想文】

恩田陸さんの最新作『スキマワラシ』は、古道具店を営む兄と、古い物に触れると過去の記憶が見える弟が、廃ビルに出没する都市伝説の少女の謎に迫る物語です。
この作品は、建築物の美しさや歴史、そしてそれにまつわる人々の思いや関係を描いた、ファンタジックなミステリーと言えます。

物語の舞台は、再開発予定の地方都市S市です。ここには、戦前のホテルを移築した消防署や、親戚が作ったタイルが使われた公園など、主人公たちにとって特別な意味を持つ建築物があります。
しかし、それらは近代化の波に押されて、次々と姿を消そうとしています。そんな中、主人公たちは、白いワンピースに麦わら帽子をかぶった幼い女の子の幽霊を目撃します。
彼女は「ハナちゃん」と名乗り、建築物の記憶に憑いている「スキマワラシ」と呼ばれる存在だと言います。彼女は何を求めているのでしょうか?そして、彼女と主人公たちの間には、どんな繋がりがあるのでしょうか?

この作品は、恩田陸さんらしいふわっとした雰囲気と、不思議な現象が織りなす物語の魅力があります。主人公たちのやりとりや、登場人物のキャラクターも魅力的です。
特に、散多(さんた)という名前の弟は、古い物に触れると過去の記憶が見えるという特殊能力を持っていますが、それは物語のきっかけに過ぎません。彼は、自分の能力に驚いたり、それを利用したりすることはありません。むしろ、自然に受け入れて、それを楽しんだり、人のために使ったりします。
彼の能力は、建築物の記憶や人の繋がりを感じるためのツールであり、物語のテーマを象徴しています。

また、建築物の美しさや歴史に対する敬意や愛情を感じさせる作品でもあります。建築物は、人の手で作られたものであり、人の思いや記憶が刻まれたものです。
しかし、それらは、時代の変化や経済の事情によって、容易に壊されたり、忘れられたりします。それは、人の命や関係も同じだということを、この作品は教えてくれます。
建築物の記憶は、人の記憶と重なり合い、人の繋がりを生み出します。そして、それは、未来に向けて新しい建築物や関係を創造するための種になります。この作品は、そんな建築物の記憶と人の繋がりを描く、ファンタジックなミステリーです。